17世紀のハンガリーで、処女の血がもたらす回春効果を求めて600人余りもの若い娘を惨殺した貴婦人エリザベス・バートリ。“血の伯爵夫人”と称され、ドラキュラと並んで歴史に悪名を轟かせたこの女吸血鬼の所業を、ハマー・プロが実録風の味付けで映画化。監督は前年の「ドラキュラ血の味」(69)で見事にクリストファー・リーのドラキュラを復活させたピーター・サスディ。「バンパイア・ラヴァーズ」(70)のレズビアン吸血鬼役を好演したイングリッド・ピットが、特殊メイクによる醜い老女の姿と血塗れになった美しい裸体を披露するのも話題になった。
60年代後半から70年代にかけ、映画界は血と裸に彩られた刺激の強い作品が台頭しはじめた時期でもあり、市場に敏感なハマーもその動向に追随。良識派のファンからは抗議が殺到したようだが、そんな俗悪描写さえ巧みにゴシック調の物語に取り込んでみせた手腕に、老舗の意地と並々ならぬ商魂の逞しさが窺える。
尚、エリザベス・バートリーは、本作以外にも、「悪魔の墓場」のホルヘ・グロウ監督が史実に比較的忠実に描いた「悪魔の入浴・死霊の行水」(72)や、名画家ピカソの姪パロマ・ピカソが伯爵夫人を演じた「インモラル物語」(73)、狼男の仇役として登場する「ワルプルギプスの夜」(70)の他、「Daughters
of Darkness」(71)では現代のベルリンに降臨するなど、ホラー映画の格好の題材として幾度と無くモチーフにされている。