本名インゴシュカ・ペトロフ。1937年11月21日、ポーランド生まれ。父はドイツ人、母はユダヤ系リトアニア人。5歳まで強制収容所生活を余儀なくされ、10歳で赤十字の助力により別離した両親と東ベルリンで再会した後も、様々な戦争の惨禍を体験する。15歳から女優を志し、62年11月、伝統あるベルリン・アンサンブル劇場に出演する機会を掴むが、政治状況の悪化により舞台に立つことなく家族と共に東ベルリンを脱出。スペインに渡り、6年の間に低予算ホラー「El
Sonido de la muerte」(64)を含む数本の映画に出演。芸能産業の労働組合制度が整備され、外国人女優としての活動に支障が生じるまで、舞台出演のほか、自らのTVショーを持つなど精力的に仕事を続けた。イギリスに渡った後、「荒鷲の要塞」(68)でリチャード・バートン、クリント・イーストウッドと共演。その演技を気に入ったハマー・プロのジェームズ・カレラスから「バンパイア・ラヴァーズ」「鮮血の処女狩り」(70)への出演を依頼される。その後もアミカスのオムニバス「ブラッド・ゾーン」(71)、カルト映画として名高い「ウィッカーマン」(73)など恐怖物への出演が相次ぎ、名実ともにホラー・クイーンの座を築き上げる。80年代には「ファイナル・オプション」(82)、「ワイルド・ギースII」(85)、「アンダーワールド」(85)、「ハンナ・セネシュ」(88)などで存在感溢れる妙演を披露。近年も、久々に出演したホラー「The
Asylum」(00)で娘ステファニーと初共演するほか、海外でも評価の高いアーティスト韮沢靖氏がデザインを担当したCGアニメ「dominator」に声優として参加するなど幅広い活動を続けている。
ピーター・カッシング
Peter Cushing
1913年5月26日、イギリスのサリー州ケンリーで測量技師の家庭に誕生。本名はピーター・ウィルトン・カッシング。俳優をしていた祖父母や叔父の影響で、チャップリンやキートンの映画を偏愛して少年期を過ごす。学校を卒業後は政府の験船士助手をしながら地元のアマチュア劇団に参加。やがて奨学金を得てロンドンの演劇学校で発声を学び、22歳の時に舞台デビューを果たす。39年、成功を夢見てハリウッドに渡り、ブロードウェイの舞台や「The
Man in the Iron Mask」(39)などの映画に脇役で出演。しかし第2次世界大戦の勃発により程なく帰国。戦後すぐに俳優活動を再会し、名優ローレンス・オリヴィエの「ハムレット」(48)でイギリス映画に初出演。この作品は奇しくもクリストファー・リーとの初仕事となった。50年代はTVの仕事に恵まれるが、SF映画で成功を収めていたハマー・プロのジェームズ・カレラスから声がかかり、「フランケンシュタインの逆襲」(57)でマッドサイエンティスト役を好演。続く「吸血鬼ドラキュラ」(58)ではヘルシング教授に扮し、共演のクリストファー・リー、ヴィンセント・プライスらと並んで、60年代の英国怪奇映画を代表する個性的な顔となった。時代が下がってハマーやアミカスが精彩を欠いた後も、ホラー俳優としての名声は衰えず、多くのジャンル作品に出演。後年は「スター・ウォーズ」(77)の帝国軍総統役などで、独特な存在感を放っていたが、94年8月11日、前立先癌により逝去。「ビグルス・時空を越えた戦士」(85)が最後の劇場用映画出演となった。
趣味の絵画はプロ級の腕前。
ロイ・ウォード・ベイカー
Roy Ward Baker
1916年12月19日、ロンドン生まれ。映像の仕事に興味を持ち、地元ロンドンにあったゲインズバラ・スタジオに就職。短期間で雑用係から助監督にまで出世するが、第2次世界大戦の勃発により、やむなく従軍カメラマンに転身。そこで「恐怖への旅」(42)などの原作者として知られるサスペンス小説の鬼才エリック・アンブラーと出会う。終戦後、脚本家やプロデューサの仕事もしていたアンブラーの手引きで、監督処女作となった犯罪劇「The
October Man」(47)のメガホンを取る。52年にハリウッドに渡り、マリリン・モンローが精神が不安定なベビーシッターを演じた「ノックは無用」(52)などの作品を演出。およそ3年間仕事をした後に帰国し、「脱走四万キロ」(57)、「巨艦いまだ沈まず」(62)などの戦争秘話ものや、有名な海難事故を題材にした名作「SOSタイタニック/忘れえぬ夜」(58)を発表。60年代後半以降はハマー、アミカスが製作したSF怪奇映画を中心に活躍し、「火星人地球大襲撃」(67)、「残酷な記念日」(68)、「ドラキュラ復活/血のエクソシズム」(70)、「バンパイア・ラヴァーズ」(70)、「アサイラム・狂人病棟」(72)、「ドラゴンvs7人の吸血鬼」(73)など、傑作・問題作を取り混ぜた異色のフィルモグラフィーを築いた。近年は主にTVを中心に活動。
ピーター・サスディ
Peter Sasdy
1935年、ハンガリーのブダペスト出身。英国のTV局BBCの演出家として頭角を現し始め、アイザック・アシモフ原作の「鋼鉄都市」をピーター・カッシング主演でTVドラマ化した「The
Caves of Steel」(64)のほか、「Ghost Squad」(61)、「Out
of the Unknown」(65)などの怪奇シリーズで演出を担当。また古典ミステリーの映像化にも定評があり、「BBC版
シャーロック・ホームズ」(64)を始め、数々の作品でその辣腕を振るっている。映画監督としてのデビュー作は、ハマー・プロのドラキュラ・シリーズ第4弾「ドラキュラ血の味」(69)。その後、「鮮血の処女狩り」(70)、切り裂きジャックを扱った「ハンズ・オブ・ザ・リッパー」(71)のほか、TVシリーズ「悪魔の異形」(80)の演出を手掛けるなど、後期のハマーにとって不可欠な若手監督となった。また、ハマー以外でもクセ者キャストを配した異色作を意欲的に連作。クリストファー・リー、ピーター・カッシング、ジャック・パランス、ドナルド・プレザンスらを起用し、不老不死を題材に取った「デビル・ナイト」(72)、汚染された魚が原因で人々が喰人鬼と化す「Doomwatch」(72)、悪魔の赤ん坊が凶事を招く「ベビー・ゾンビ/鮮血の産ぶ声」(75)など、ユニークな味付けの作品で大いに気を吐いた。悪名高きカルト女優ピア・ザドラで撮った「The
Lonely Lady」(83)が84年のラジー賞でワースト監督賞に輝いたのも、彼の野心の裏返しと評価すべきだろう。
